2018年6月中旬、アメリカのトランプ大統領が宇宙軍の創設を指示したというニュースを聞いてワクワクしました。
そして、40代以上のアニメ好きな方にとっては宇宙軍創設のニュースは特別な喜びがあったのではないでしょうか?
そう、宇宙軍と言えば『王立宇宙軍〜オネアミスの翼』です。
ニッチなマニアには『宇宙軍艦にっぽり』の方を思い出すのでしょうか?
(余談ですが、Macで「おねあみすの」と入力して変換すると「エヴェの」になるのはなぜかしら?)
情報源が限られていた時代に、公開前から雑誌やテレビCMで目にする機会が多かったのを覚えています。
ガイナックスによる初作品で、監督の山賀博之さんが喫茶店で打ち合わせをしている時に注文したロイヤルミルクティがヒントになり、「ロイヤルスペースフォース」という言葉がひらめいたことで、主題をロイヤルスペースフォースを和訳した「王立宇宙軍」としたそうです。
ちなみに、ガイナックスとは山陰地方の方言で大きい(がいな)からきています。
この作品は『アニメファンに現実を再確認させる作品』と企画書に書かれています。
情報過多な世の中で、アニメファンのあり方が健全的ではないという発想から生まれているようです。
そして、アニメファンに現実を知ってもらうために緻密な世界設定を行なっています。
舞台ははっきり地球としています。中途半端な「ナントカ星」とか「ナントカワールド」とはしませんでした。
風土、気候、大陸構成、文化、科学、宗教、風俗、軍事まで、ことこまかに設定されています。
そのため、上映から20年を経過しても色あせることがないのだと思います。
ひとことであらすじをいうなら ”ロケットを飛ばすだけのアニメ” です。
かっこいいロボットも出てこないし、キャピキャピのパイオツカイデーなかわいい女の子達もでてきません。
淡々と物語が進行していく、日常を描いています。
主人公のシロツグは無気力な青年です。
現代の若者を象徴しているようですが、20年前の若者もすでに無気力だったのでしょう。
ヒロインのリイクニィは平凡な特徴のない女性として描かれています。
いつの世も女性は華やかであってもらいたいと願う男性ファンに配慮しないリイクニィのキャラはかえって神聖で神秘的です。
シロツグとリイクニィの恋愛も静かなもので、大人の恋愛以上のなにかを感じさせられます。
シロツグが置かれた環境は軍隊であっても家庭的なのんびりした職場ですが、何をしたいわけでもないシロツグは目的もなく転職を望んだりしています。
かといって転職活動するわけでもなく、現状に甘んじることも現代に通じるものがあるように感じます。
そんなシロツグがリイクニィと知り合い、生きる目的を見つけて生きる意味を発見していく様は感動的です。
両親が不仲な家庭に生まれたマナですが、リイクニィがその環境に見かねて、なかば誘拐のように強引に両親から引きはなして一緒にくらしています。
男の子のような見た目ですが、女の子です。
マナは無口で無表情。こどもらしい可愛げがまったくありません。
そんなマナに対してシロツグはとても優しく接しています。
街でチラシを受け取っただけの女性のお宅へうかがい、初めて訪問したさきに無愛想な子供がいて、あなたはその子供に愛想よく対応できるでしょうか?
シロツグは何度もマナに会っていてもマナは決して感情を出しません。
シロツグの心の中を見透かすように上目遣いで睨みつけているかのような表情です。
そんなマナとの間に変化が現れます。
シロツグが宇宙軍本部があるナガツミを離れることになったので、リイクニィにお別れの挨拶をしに彼女のもとへ行きますが、リイクニィは不在でマナが一人であそんでいました。
シロツグはマナに話しかけるのですが、マナがはじめてシロツグに話しかけます。
そして満面の笑みをシロツグに投げかけます。
無表情で無愛想な子がシロツグに心を開いた瞬間です。
マナは争う両親の顔色を伺いながら育っているので、大人の感情を敏感に感じ取ることができるのだと思います。
これまでのシロツグは心に何かひっかかるものがあり、正直に、素直に生きていなかったのでしょう。マナはそんなシロツグの心を見抜いて笑顔を見せることはなかったのだと思います。
マナは大人の前では常に緊張状態だったと思われます。
大きな決断と経験を得たシロツグの心が清められ、マナにとって安全な大人であることがわかったこから、マナはシロツグに笑顔を向けたのでしょう。
でも、マナはリイクニィの前では笑いません。
リイクニィはまだ心を閉ざした大人であるということだと思います。
マナにとってリイクニィは母親のような世話をしてくれていますが、心を許せない赤の他人のままなのかもしれません。
ふつうアニメでこれほどまでに神や信仰について表現しないと思います。
オネアミスという国にはもともとの宗教があるという設定です。
冒頭で宇宙軍の仲間が実験中に亡くなったため、葬儀が執り行われています。
この葬儀形式は日本でいう仏教と同じです。
オネアミスでは絶対神を持たず、預言に従うイブリ教が浸透している設定となっています。
仏教も絶対神を持たないのでオネアミスの一般的な宗教観は多くの日本人と同じと考えていいと思います。
シロツグ達が繁華街で飲み歩いている時に、リイクニィはその繁華街で神や信仰について書かれたビラをひとりで配っています。
快楽にまみれた繁華街に少女がひとりでビラを配っているのです。
しかも、リイクニィが信じている信仰はアネアミスでは異端扱いされる外国の宗教です。
リイクニィが信じる神様の話は、ギリシャ神話の「プロメテウスの火」が元になっているようです。
(私は幼稚園でこの話の絵本を読んだ記憶があります)
リイクニィの信じる宗教では創造主がいる一神教であって、仏という概念ではなさそうです。
リイクニィがシロツグに渡した経典に「神がひとをつくられた時〜」とあるように、現社会の進化論的立場でもなく、創造論に準じているので、キリスト教をイメージしていると思われます。
(のちのガイナックス作品「エヴァンゲリオン」では聖書が引用されていますね。)
映画では描かれていないシロツグの詳細な心理描写にひきこまれます。
シロツグの色恋話や宇宙軍内の問題、映画冒頭の戦友の死についても書かれています。
マジャホとドムロッド、シロツグの教官役のエルフトについての記述が映画で描かれなかったことが少々残念だと感じます。
しかし、シロツグとエルフトの関係を映画に組み込むと、ストーリーがぼやけてしまうとも思います。
エルフトの話を全カットしたことで、シロツグとリイクニィとマナの関係性が強調されて物語に深みを持たせたとも言えると思います。
マジャホの存在は映画でもちょっと気になるので裏設定として少し残したようにも見えます。
マティがマジャホに発射時間の繰り上げを連絡した時の表情がね。。。。
ドムロッドも雨の抗議集会のシーンでシロツグに喧嘩を売っていますが、二人の関係性が小説を読んでいるともしかしたらこの設定が残っているから?と思えます。
再び、マジャホに関しては酒場で腕相撲をして遊んでいるシーンが映画にはありますが、小説版を読んでから映画のこのシーンを観ると違って見えます。
ちなみに、酒場で流れている「アニャモ」という曲がサントラに収録されています。
この曲より、「宇宙軍軍歌」を収録してほしかったし、シロツグが空軍の機体を借りて訓練している時に流れているピアノ曲も入れて欲しかったです。
トランプさんが指示をだした宇宙軍が実現するのか?
宇宙軍が設立された場合どんな組織になるのか?
実はすでに宇宙から敵が攻めてくることがわかっているから設立しようとしているのか?
ばかばかしい話かもしれませんが、オネアミスファンとしては楽しみです。
そして、アニメ映画「王立宇宙軍〜オネアミスの翼」から懸命に生きること、何かに打ち込むこと、世界や自分を取り巻く環境のことに目を向けて、改めて自分のことを考えるきっかけにして欲しいと思います。