【夏】と聞いて思い浮かぶアニメの第1位
90カ国の国と地域で上映され、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞した
「サマーウォーズ」はマッドハウスが制作しワーナーブロスが配給して興行収入16.5億円を達成した大ヒット作品です。
前作の「時をかける少女」は全国13館での上映でしたが、「時をかける少女」が星雲賞メディア部門を受賞するなどの実績を買われて、本作「サマーウォーズ」は全国125館での上映となりました。
2009年8月1日に公開された「サマーウォーズ」ですが、8月1日という日と、2009年という年が壮大な計画となっています。
アニメ映画サマーウォーズ
あらすじ
舞台は2010年の長野県上田市、陣内家が世界の危機を救う物語。
世界は発達したネットワーク社会で構成され、「OZ」と呼ばれる仮想空間で役所や企業もオンラインで決済や選挙もできる仕組みが世界規模で展開されています。
2003年にリンデンラボ社が運用を始めた「セカンドライフ」のようなものですね。
「セカンドライフ」と同じように、OZもアバターでログインします。
OZでのアカウントはリアル世界と同一なので、職務権限などもOZ上で紐づけられています。
主人公の健二と親友の佐久間は都内にある久遠寺高校に通いながら物理部の部室のパソコンを使ってOZのシステム保守点検のアルバイトをしています。
健二は計算が得意で、国際数学オリンピックの日本代表候補となるほど数字に強い男の子です。
一方佐久間は女好きでコンピューターに強く、物語内では影の実力者としてさりげなく貢献します。
二人が部室でOZのメンテをしていると、校内一のアイドル的存在である夏希先輩が勢いよく二人がいる物理部の部室のドアを開けます。
「ねえバイトしない?」
OZのバイト中に別のバイトのお誘を受けて健二と佐久間は一瞬戸惑いますが、夏希先輩のバイト内容を聞いてOZのバイトどころでは無くなります。
募集人員1名の枠に見事当選したのが健二でした。
バイトの内容を知らされることなく二人は夏希の祖母が暮らす長野県上田市に向かいます。
上田市伊勢山にある夏希の祖母が暮らす陣内家は地元の名士で、政財界にも顔が利く大物です。
そんな健二の携帯に「Solve Me(解いて)」というタイトルで2056桁の乱数表が送られてきます。
数学オリンピックの日本代表になり損ねた健二は思わず解いてしまったことでAIとの戦争が始まります。
陣内家で繰り広げられる家族の戦争とAIの戦争に家族が立ち向かっていくこの作品は観る人を「サマーウォーズ」の世界へ引き込んでいきます。
起承転結でまとめられたこの作品はテーマを家族愛としています。
細田監督自身が前作の「時をかける少女」が公開した年に長年おつきあいされていた現在の奥様のご実家のご両親に挨拶にいかれた時に感じた家族が増えるということ、
また、結婚して多くの親戚が集まり、その家族や親戚にはそれぞれ壮大な人生の背景があることを知ることが「サマーウォーズ」を作るための原点になりました。
脚本家の小野寺左渡子さんとのミーティングで、「時をかける少女」は恋愛ものだったので、次回作はアクション物をやろうと話し合われていたそうです。
アクション物と言うと誰もがハリウッドの超大作を思い浮かべます。
そんな中で日本映画でしかもアニメーションでアクション物をやることは新鮮だと感じられたようです。
細田監督のキャラクターにはあるものがない
細田監督の作品に登場するキャラクターには通常のアニメでは必ず書かれる影がありません。
のっぺりとした塗り方となっていますが、画面全体にはっきりとした陰影があるため違和感なく見ることができます。
人物に影を書かない理由は手間が減って他の表現に時間を割くことができ、作品のクオリティをあげられることに加えて、古く日本画の「助六」などにも影がないのに躍動感が感じられるということから影を書かない新しい技法を取り入れているからです。
キャラクターの心理描写の際は、それぞれのキャラクターの心境を背景の陰影で見事に現しています。
栄おばあちゃんはみんなのばあちゃん
物語の中心にいる栄おばあちゃんは90歳の誕生日が2010年8月1日。
映画の公開が2009年8月1日なのは、栄おばあちゃんの誕生日に合わせて観客が翌年に上田市へ足を運ぶことを想定しての公開日なのです!
上田市と細田監督の計画は素晴らしいとおもいました。
栄おばあちゃんはいつも上田紬を着た上品な人です。
日本には有名な紬として「結城紬」と「大島紬」がありますが上田市の上田紬も大変高級で有名です。
朝顔が大好きな栄おばあちゃんは、着物の帯も、浴衣も朝顔のデザインで、庭で朝顔の鉢植えも育てています。
朝顔はそのタネを残してまた翌年咲くので黄泉がえりや代々続く家族や世代を象徴しています。
栄おばあちゃんは物語のキーアイテムとなる花札の名人でもあります。
「死」ということを考えさせられた細田監督
これまで細田監督は作品中で誰も死なせてきませんでした。
本作「サマーウォーズ」でも栄おばあちゃんの死を描くことに対して細田監督はかなり迷ったようです。
幼い頃にお父様を亡くされて、「サマーウォーズ」の制作前にお母様が脳梗塞で倒れられていたことが栄おばあちゃんを死なせたくないという心境に至らせていました。
『もし、栄おばあちゃんを死なせてしまうと自分の母親も死んでしまうのではないだろうか?』
しかし物語上どうしても栄おばあちゃんが死ななければならない流れになるので、細田監督は栄おばあちゃんの死を描くことにしました。
そして、細田監督の予感は的中してしまいます。
「サマーウォーズ」公開直前にお母様とおばあさまを亡くされてしまいます。
公開後の初テレビ放送で事件が発生
初めて「サマーウォーズ」がテレビで放送された時にちょっとした事件がおこりました。
物語の中で大きな役割を果たしていた万作おじさんの孫の了平のシーンが全てカットされていたのです。
放送は「サマーウォーズ」に出資している日本テレビでした。
テレビ局の悪いクセなのでしょうか?放送時間を延長せずに本編をカットして物語より時間を優先して視聴者に対してテレビ局の都合を押し付けたのです。
劇中では了平の戦争(高校野球)も描かれています。
佳主馬がラブマシーンと戦っている時も健二がOZを取り戻そうとしている時も、夏希が世界を救うために戦っている時も、グラウンドで良平は戦っているのです。
エンディングで優勝旗を持ち帰ったシーンだけはカットされずに放送されましたが、ネットはかなり荒れました。
日テレはこうした自己満足な演出が大好きです。
他の映画作品でも頻繁に「オリジナル」と称して勝手に作品を編集してしまいます。
「サマーウォーズ」でも細田監督のディレクターズカットだと自慢げに宣伝していましたが、命をかけて作った作品を放送時間に合わせてカットする細田監督がかわいそうでなりません。(以降はノーカットでの放送がおこなわれるようになりました)
おいしそうな食べ物も作品の魅力
「サマーウォーズ」では食べ物も映画を魅力的にする道具となっています。
万助おじさんが持ってきたイカ(スミイカ、アオリイカ、ケンサキイカ)、牧水と御園竹という日本酒(美術監督の武重洋二さんのご実家武重本家酒造が販売しています)、侘助が美味いと言ったサッポロ生、庭で焼いた串焼き。
大家族で食べるために大皿に盛られた料理はとても美味しそうに見えます。
そして、この料理の絵も陰影はつけられていません。
花札が織りなすストーリー展開
「サマーウォーズ」では栄おばあちゃんの得意な花札が多く取り上げられています。
侘助と夏希のシーン、栄おばあちゃんと健二のシーン、そして最終対決。
公開当時、私は花札の知識がなかったので、イマイチ理解できなかったのが残念でした。
ラブマシーンとの対決で花札が選択されますが、最後は最高の上がり手、『五光』で勝利します。
花札は江戸時代後期に発案され、花鳥風月の絵柄で12ヶ月を表したものが4セットあります。
サマーウォーズでは「こいこい」という遊び方を採用していますが、ギャンブル性が高いゲームだそうです。
リアルな美術が作品の質を向上させている
陣内家のデザインは美術・キャラクター設定を担当された武重洋二さんのご実家(武重本家酒造)がモデルになっています。
武重監督は「王立宇宙軍〜オネアミスの翼」で初めて背景美術に参加された方です。
その後、ほとんどのジブリ作品や「この世界の片隅に」やジブリ美術館で2018年に上映された「毛虫のボロ」にも背景担当として参加されています。
OZの世界は「ALWAYS三丁目の夕日」「永遠の0」で日本アカデミー賞最優秀美術賞を受賞された上条安里さんがデザインを担当され、OZ内のグラフィックデザインにはデザイナーの鈴木克彦さん、アバターデザインには岡崎能士さん、岡崎みなさん、浜田勝さんの3名が担当されました。
美術スタッフには新海誠監督作品「秒速5センチメートル」にも参加された石田弓さんも参加されています。
「風の谷のナウシカ」でもハーモニー担当をされていた高屋法子さんが参加されています。
高屋さんの旦那さんは王立宇宙軍〜オネアミスの翼」で助監督をつとめ庵野監督作品の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」や「シンゴジラ」にも参加、「ひそねとまそたん」では総監督をされた樋口真嗣さんです。
キャラクターデザインは貞本義行さんです。
貞本さんも「王立宇宙軍〜オネアミスの翼」でキャラデザを担当されています。
サマーウォーズでは貞本さんのキャラデザを作画監督の青山浩行さんが映画用に描き起こされています。
デジタルとアナログの共存
AIとの戦争や健二たちの日常はデジタルであふれています。
いっぽう陣内家の栄おばあちゃんはアナログな暮らしをしています。
クーラーもない古い屋敷に住み、黒電話を使い、花札で遊び、薙刀を振り回す。
栄おばあちゃんの住む世界と健二たちの世界はまったく別の世界のように描かれています。
OZの混乱を解消させたのは健二ですが、栄おばあちゃんの心の通ったアナログの黒電話でデジタル世界の混乱を解決しました。
デジタル世界を混乱に陥れた侘助に対して、薙刀で応戦。
そんな栄おばあちゃんの健康状態はOZ経由で万助おじさんが管理していることはちょっと皮肉に思えます。
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長野県上田市は熱かった
舞台設定の上田市は細田監督の奥様のご実家があるため、上田市の街並みや文化が詳細に描かれています。
第一回のロケハンは山形県で行われましたが、最終的に奥様のご実家がある上田市に決定しました。
上田市は多くの映画のロケ地に選定されていますが、上田市として大々的に映画の舞台となったのはサマーウォーズが初めてです。(以降、「月曜日のルカ」や「青天の霹靂」でも上田市が舞台となっています)
本作上映の翌年が映画の実際の時間軸となっていたため、2010年の7月31日の上田市は異様な盛り上がりをみせていました。
街を挙げての「サマーウォーズ」祭りで町中が青色に染まっていました。
市内ではスタンプラリーが実施され、今となってはもう入手困難な現地でしか買えないレアな商品があれこれ充実していました。
映画のキーアイテムとなっている「朝顔」の鉢植えが市内中心部に数多く飾られ、駅前にあったイトーヨーカ堂には特設会場が設けられていました。(2011年の駅前のイトーヨーカ堂は閉店し現在は駐車場になっています)
上田わっしょい
上田市には1972年から続く「上田わっしょい」というお祭りがあります。
映画でも「上田わっしょい」がさりげなく紹介されています。
「上田わっしょい」は毎年7月の最終土曜日に開催されます。「連」とよばれるチームごとにお祭りの前半は規定の踊りを踊り、後半からは各「連」のオリジナルな踊りを踊って楽しみます。
地元の方々の「連」とは別に、市外県外からの観光客も参加できるように「飛び入り連」も用意されています。
この年から特別に飛び入り連の中に「サマーウォーズ連」が創設されました。
公開後初めての「上田わっしょい」には100名ほどの方が「サマーウォーズ」連に参加しました。
地元の高校の美術部の皆さんは「サマーウォーズ」に登場するアバターに扮して踊りをもりあげていました。
また、県外から参加されている方の中にもコスプレをしているひとが大勢いました。
この年以降も地元のサマーウォーズを愛してやまない方々のご尽力により、毎年「サマーウォーズ連」が存続することができています。
この年の上田市の盛り上がりは尋常ではなかったです。
あきっぽい日本人の特性は翌年以降にいかんなく発揮され、「上田わっしょい」に参加する「サマーウォーズ連」の参加者数は激減していきます。
翌年は真田幸村をテーマにしたアニメで街は真っ赤でした。
グッズも赤一色で、青い「サマーウォーズ」は隅の方においやれれていました。
さらにその後は大河ドラマ「真田丸」で町中真田丸一色。
年々「サマーウォーズ」の影が薄くなっていきます。
映画では家族(身内)との戦争、AIとの戦争、自分自身との戦争を表現していましたが、現実世界でも暑さとの戦い、天気との戦い、縮小していく「サマーウォーズ蓮」を維持する戦いが繰り広げられています。
踊りの終盤では山下達郎さんが歌う主題歌「僕らの夏の夢」が流れました。
また、花火も打ち上げられ、踊りで汗だくになりヘトヘトになっていましたが、その疲れも吹き飛ぶ演出に感動しました。
現地でサマーウォーズを観る
翌日の日曜日は市民会館で上映会がありました。
抽選で選ばれた人だけが参加できる上映会でしたが、地元上田市で「サマーウォーズ」を観ることができたこともとても嬉しかったです。
そして翌年以降は「晴天の霹靂」で使われた大正時代に建てられた趣のある上田劇場でサマーウォーズを鑑賞できるように、地元のサマーウォーズ実行委員会の方々が頑張ってくれています。
公開から8年経った2017年は栄おばあちゃんの7回忌でした。
この時も街をあげて栄おばあちゃんの7回忌が執り行われました。
きっと2023年の13回忌も執り行われると思います。
サマーウォーズという作品はは私たちに家族の絆や人とのつながり、地元のつながりを再確認させてくれる作品です。
参考資料:サマーウォーズ公式ガイドブック
上田市聖地巡礼サマーウォーズギャラリー
映画と同じ7月30日の11時10分に東京駅構内にある銀の鈴まえにて。
映画と同じ11時44分発のあさま521号で上田市へ。
車内では映画と同じ30品目弁当を食べました。
上田駅に到着。映画ではガスタンクが見切れていますが、実際のガスタンクは駅からかなり離れています。
駅構内には映画と同じ演出がされていましたが「上田わっしょい」の画像は出ていませんでした。
駅前はサマーウォーズ一色でした。
イトーヨーカ堂店内の演出
上田市役所での展示
観光会館での展示
商店街の喫茶店で開催されていた原画の展示
日曜日の上映開場に停められていたファンの痛車。